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【 いい運命のはえる種を 】

「センセ、カイラン板です・・・」回覧板をもって来た。「ああ、ありがとう・・・嫁さん!ちょっと待ちなよ・・・」
呼びとめて「ちょっと話があるだよ、いい話だから・・・ネ」
「ナンでしょうか・・・」
けげんな顔。この嫁さん、婆さんがいうほどつんけんした顔じゃない。しもぶくれで、ひと重まぶたで上品な顔が可愛らしい。大げさにいえば博多人形のような愛きょうのある顔・・・とでもいえる。

「あのネ・・・。今、あんたんとこの婆ちゃんが来てたんだけどネ・・・」
縁ばなに腰をおろした博多人形に、こちらもニコニコしながら話しかける。春の陽が、どこからともなく、うららかに庭の樹のこずえに光る、気もちのいい昼下がり。

「婆さんは年寄りだからネ。クドイことをいうだろう。それに気も強いしネ。あんたも大変だろう・・・だけどネ、余り逆らわない方が いいんじゃないかナァ・・・」
意見くさくいわずに、嫁さんをいたわるように、嫁さんの味方のような口ぶりで優しく話しかける。相手も素直にうなずいて聞いてくれる。

「あのネ。世の中というものはネ。運命が、幸せ、不幸せのもとになるんだよ。いい運命がほしかったら、いい運命の生える種をまかなくてはいけないんだナ。わたしたちが今やっていることが、みんな将来の運命の種まきになるんだ・・・ョ。
なすの種からきゅうりは生えない。トマトをまいてかぼちゃは生えぬ。種どうりに正直に生えるのが天理天則なんだ。

今、あんたがよい種をまけば、先へ行って、必ずいい運命が訪れて、きっと幸せになれる。
あんたが今おばあちゃんをキュウキュウ、ポンポンやっつけておくと、これが種となって・・・十年後にはあんたの息子さんが嫁さんをもらうだろ。
そうすると、あんたが今のおばあちゃんの立場になる。そのとき、今、あんたがまいた種が生えて来るんだよ。

今、あんたがお姑さんをキュウキュウポンポンやっつけてるとネ、あんたが姑になったとき、きっと嫁さんにキュウキュウとやられるんだ。
それもただキュウキュウじゃすまない。
十年の利息がついて、キュウキュウ、キュウキュウ、キュウキュウと嫁さんにめッちゃめッちゃ、くッちゃくッちゃにされるんだ。

夜もねむれないほど、悲しい運命に泣くことになる。だからネ、親不幸は自らが悲しみの種をまくことになる。
親孝行は、自らが喜びの種をまくことになる。親孝行は、決して親のためではなくて、自分みずからのためなんだ・・・ネ。
それがわかってくれるかなあ。親孝行が大事だってことが・・・さ」

じっと聞いていた嫁さん、博多人形の、ひと重まぶたの目が輝いて・・・
「センセ、いいことを聞かせていただいて本当にありがとうございました・・・わたし、こんなお話、聞いたことないんです。学校でも教えてくれなかったんです・・・」
美しい白い歯が、心の清らかさをみせている。


これだ!!
 ある日、学校に用事があり訪れた。
今は昔と違って便所も外にはない、校舎の中に水洗となっている、そこに小さな黒板があった、よく見ると、それには
「○○さん、あなたは一人で便所の掃除をしてくれてありがとう」と書いてあった。
そして履物もキチンと揃えてあった。
何とすがすがしい事であろう。

 こうして、その子供を認めてほめて下さった先生、そして、そこまで育て、躾をして下さった親。子を見れば親がわかる、親を見れば子がわかる。
どんな子だろう、一度あってみたいとおもった。
「さあ、勉強だ、さあ、塾だ」と言っては読み書きソロバンばかりに熱中して、偉い人間ばかり作ろうと”教育”する世の中に、それより立派な人間を育てようとしつけられた、この子の親さんに頭が下がるおもいでした。

 家庭の教育、それは何でもない。
「これだ!!」これが家庭教育の根本であることを教えられた。

■言われてせぬのは、横着者
■言われてするのは、正直者
■言われずするのが、まことの人間

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