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読んで下さい

【 はかしれぬ運命 】
常岡 一郎

よく言われる「あの人は運のええ人だ」とか反対に「運の悪い人だ」とか。この運はこんな風に簡単に片づけてよいものだろうか、次に掲載しましたことを読んで、この現れてくる運にはなにか以前、種が蒔かれている様な気がします。著者の常岡一郎さんは、元参議院議員、現在中心学園を経営して社会福祉に貢献していられます。
著書には「中心をめざして」「天の手紙」等沢山あり、テープに「時計と便所」を吹き込んでおられます。当方にありますからご希望の方は聴いて下さい。

一枚の航空券、一つの空席、これをめぐって死の運命が舞い狂った。三人の生命がからみあった。ここにも人間の知恵、はからいのむなしさがうつしだされている。運命の支配力が人にせまってくる。それはこうであった。
全日空の飛行機が落ちた。全員死亡という悲劇がおこった。その飛行機に乗るために座席を予約していた人がある。それはリタ、ルーイさんである。彼女は髪を結いにいった。
ところが、ちょうどその日は火曜日であった。美容院の定休日であった。しかたがない。新宿のデパートの美容院にいった。ここも満員だ。しばらく待たねばならなかった。いらいらした。そのために旅立つ心がにぶってきた。そのまま家に帰った。そこに夫から電話があった。その日、米軍の軍用機でいくはずであったが急用で乗れなくなった。あしたの全日空機で行くことにしたという。どうせ行くなら夫といっしょに行きたい。こう考えて出発をのばした。そのため助かった。絶対の死をのがれた。
彼女が予約を取り消した。そのため一つの席が空いた。それを手に入れた人がある。よろこんで乗った。それは近畿モータス東京支社の藤間克己さんである。この人はたまたま空席ができたので乗った。死出の旅とも知らずに乗った。しかしこの一つの空席をめぐってふたりが争った。藤間さんと林さんである。藤間さんが勝った。それで乗った。まさかこれが死の競争であったとは思わなかった。そのまけた林さんは鈴木社長の秘書である。社長と同行するはずだった。その林さんがまけた。汽車で名古屋に帰った。このために鈴木社長はひとりのった。死んだ。秘書の鈴木さんだけは助かった。

社長と秘書、人間の世界ではまず死ぬなら秘書からといいたいところであろう。運命とは自然は人間的な地位や富は問題にならないようである。

東京の銀座のビルの七階から落ちた人がある。昭和三十八年六月はじめの新聞で知った。しかもカスリ傷で助かっている。ところが同じ新聞の同じ面に並んで書かれた記事はひどいものである。電気洗濯機の中に子供が落ちて死んだ。しかも母親がそばにいながら、死んだのを気づかなかったというのである。

ビルから落ちた人は、東京池袋の東洋美装の社員である。ビルの外装を清める会社の岩沢和夫さんである。三十二歳の人である。たとえ三階でも、手すりがなかったら、下を見てゾッとする。まして七階の上の仕事である。窓ガラスの外側をふくのである。まったく危ない。岩沢さんは美しく清掃した。それが終ったとき足をふみはずした。アッというまに落ちた。なにしろ七階である。下はもちろんコンクリート、人通りははげしい。破けて死ぬほかない。彼に当たった人も死ぬだろう。ところが不思議に電線にひっかかった。速度が削られた。ふたたび落ちたときは人道の外側におちた。ちょうどそこにホロをかけた自動車が止まっていた。洋品店のチロルの自動車であった。それが五六分前にそこに止まった。うまくホロの上に落ちた。それで助かった。

もし六分前におちたら、コンクリートの上である。即死になろう。又一メートル前におちたら、ラジオのアンテナに刺されて死んだろう。いまどき屋根がホロつきの自動車は少ない。一万台に一台くらいしかないはずである。そのホロのやわらかいところに落ちている。なんという幸せな人であろう。運命は明暗紙一重である。


【或る一コマ】
横田 肇

東京のサンシャイン等は、とてもお呼びがつかぬビル、アパートが建ち並んでいる文化都市。道路は整備され、ジュース缶どころかゴミ一つ落ちていない、横断橋はクーラーまで整備されている街。そこの繁華街の人通りの一角に、片足のない人が地べたにすわり、通る人びとに物をこうている姿を見た。
もう日本では、見ようと思っても見られない姿、それは福祉の姿とおもう。
やれ福祉の後退だ、何だと騒いでいる日本、どんなに後退してもあそこまでは後退せぬであろう。「生活が苦しい、賃上げだ、闘いとれ」と手をかざす指にはダイヤの指輪が光り、首には又、今ばやりのネックレスを巻きつけて、叫んでいる人達に対しての後退はあるだろう。
物の豊かな日本、物があってあたりまえ、それをもらってあたりまえ、このあたりまえの中には感謝の心は一つもない、今見て来たあの片足のない人の姿を見たとき、何と日本は幸福だろうと思った。
ただ、おもうだけでなく、頒ち合わねばならないのでは、なかろうか。

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