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【 花には蝶、砂糖には蟻 】
筒井 敬一
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ある日の午後、かん高い声の婦人 が訪れました。出てみると、里芋の ような鼻で、薄い唇に出っ歯という、 五十歳くらいの女性で、相談事があっ て来たというのです。「私は二十五 年前に結婚しましたが、半年経たな いうちに、、主人は飲む、バクチは 打つ、女好きで仕事はグウタラとい う、どうしようもない人だと分かり ました。
離婚しようと思い ましたが、お腹に 赤ちゃんができて いたので我慢して 長男を生みました。
しかし主人のくせ は一向直りません。 たびたび離婚を思 いつめながら今日まできました。し
かし子供も大きくなったし、今度こ そ別れようと決心、隣のおばさんに 相談したところ、先生を紹介されま
した。
私は今、亭主と別れた方がいいの か、悪いのか、教えてもらいたいの ですLと目に涙です。
私は"徳いっぱいの人生〃という ことを話そうと思い、次のように切
り出しました。 「どんなものでも、必ず理由があっ て組み合わせになっているのです。
ところであなたのご主人のアダ名は 何ですか」 奥さん少々びつくりし、 「沢山ありますが、代表的なのは銀
バエって言います。世間に嫌われて いる証拠でしょう」 とご亭主の棚下ろし。
「ではお伺いしますが、花には何が 寄ってきますか」 「そりゃ蝶でしょう」
「それじゃ、砂糖には」 「蟻に決まっています」
気の短そうな人で、不満顔をしな がら、「私は、別れるかどうかの重 大問題できたんですよ。花や砂糖の 話を聞きにきたんじゃないんですL とおこる。それをなだめながら、 「もうちょっと。で、あなたのご主 人は何でしたかね」 「うちの主人は銀バエですよ」 いったい何が言いたいんだというよ うに答えます。 「銀バエには何がくっつくんでしょ うね」 「そりゃ、クソに決まっています」 「成程、そうすると、二十五年も銀 バエと一緒にいたあなたは何になる んでしょうね」 「そりゃクソ!えっ、そうすると私 がクソになるんですか」 奥さんはビックリ顔です。 「奥さん、あなたはご主人が悪いと 思い込んでおられるようですが、あ なたは運が悪くて 銀バエ氏と結婚し たんじゃないので す。あなたがクソ だったから、銀バエ氏と結婚したと いう見方もできる んです。それがあ なたには"徳いっぱいの人生"のちょ うど良い組合わせだったんです。
しかし悲観するには及びません逆 に考えると、、あなたが花になった ら、ご主人は蝶になり、砂糖になっ ら、ご主人は蟻のような、まじめな 働き者になるんではありませんか。 相手が悪いと責めてばかりいない で、まずその白分はどうかと反省す ることも大切です。 相手は鏡に映った自分の顔のよう なもので、こっちが顔をしかめたら、 鏡の顔もしかめますし、笑ったら鏡 も笑うでしよう。
そこのところをよく理解し、花の ような陽気な顔になってみませんかL 里芋婦人の顔が複雑にうなずいて、
反省の色がみえてきたようです。 「私も二十五年も一緒に暮らしてき た夫と、できることなら別れたくあ
りません。ここは一つ努力して花に なってみせます」
と、 つり上がった目が軽くほほえんで、 「ありがとうございました。またき
ます」と軽い足取りで帰って行きま した。
(著者は、生きぬく力、幸福の条件 等多くの本を出しておられます)
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殿様ぐらし以上
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殿様ぐらし以上 一日のうち三分の一以上の時間を、 エアコンのきいた事務所で過ごして
いる。窓が締め切ってあるので、外 のさわがしさも入ってこず、汗をふ く手間もいらない別世界である。
△考えて見ると、この快適さは、秦 の始皇帝も豊臣秀吉も味わえなかっ たぜいたくである。ぜいたくといえ
ば、昔は大名でも、滅多なことで夏 の氷を口にすることはできなかった。 それが物質文明の恩恵というものだ。
△ナポレオンもおそらく、アイスク リームを食べて暑さを忘れたことは あるまい。紫式部も汗をサッとシャ ワーで流すという芸当を知らなかっ たに違いない
△ここからすると、平 均的現代人は、昔の王候貴族も味え なかった種類の便利さと快適さを、
いとも安直に手に入れ、しかもそれ を当然の事として、何ら怪しんでい ないのである
△これはまことに喜ぶ べき事態であるが、私たち心の中に 入ってみると、感謝どころか、快適
さに憤れてしまっているように思う。 それどころか、冷房のない所へ行き 合わせると文句の一つもいいたくな
る。夏は暑いのが当然なのに、それ を忘れたかのように
△夏の暑さ冬の 寒さは苦痛であり、不足の温床とな る。文明はそれを克服するために工 夫され、進歩してきたが、環境はよ くなっても私たち心の中にある不足 の種は温存されたままのようである。
(ある新聞から)
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