第6回 糖尿病の運動療法「いつでも どこでも 一人でも」

糖尿病の治療の基本は、「食事療法」と「運動療法」です。

 糖尿病の治療における運動療法のもっとも大きな目的は「インスリンの働きを良くする」ことです。
 糖尿病ではブドウ糖を細胞に取り込むのに用いられ膵臓のβ(ベータ)細胞から分泌されるインスリンの量が減少しているうえに、さらに体の感受性も悪化しています。つまり、体のいろいろな細胞(筋肉細胞など)でのインスリンの効きが悪くなっているのです(インスリン抵抗性)。

運動はそのインスリンの効きをよくしてくれるのです。そのため、インスリンを大量に分泌しなくて済むようになり、インスリンが節約できるのです。

 運動を行うと、まず筋肉中のグリコーゲンがブドウ糖になって燃焼します。次に、血液中のブドウ糖が筋肉細胞内に取り込まれエネルギー源として利用されます。
そして、この運動を20分ぐらい続けると肝臓のグリコーゲンが使われ、次の段階としては糖質の代わりに脂肪が動員されるようになります。

 結果的に、運動をするとインスリンの働きがよくなり、ブドウ糖が上手に利用されるので血糖は下がり、脂肪が燃やされるので肥満解消にも結びついていきます。

 その他にも、糖尿病の治療に役立つさまざまな運動の効用があります。

  ■肥満を予防する
  ■動脈硬化の予防になる
  ■肺や心臓を鍛えることになり、心肺機能が丈夫になる
  ■血液循環が良くなる
  ■動脈硬化予防に作用するHDLコレステロールが上昇する
  ■骨粗しょう症を予防する
  ■高血圧を予防する
  ■ストレス解消する

などの副次的な効果が期待できます。

では、どのような運動が糖尿病の運動療法として最も適しているのでしょうか?
 全身の筋肉を動かす、動的な有酸素運動が最も適しているといわれています。
 簡単で、いつでも、どこでも、一人でもできる有酸素運動として「ウォーキング」が最適でしょう。ほかにも、ジョギング、水泳、水中歩行、自転車、ダンスなどが代表的な有酸素運動としてあげられます。

 運動には動的運動以外に体を移動させないで筋力を働かせる静的運動もあります。体操、ボディービル、ダンベル、エキスパンダーなどがこれにあたります。
 糖尿病の運動療法の場合、動的運動だけでなく、この静的運動も上手に組み込むと、より運動としての効果はアップするといわれています。 静的運動を加えると、筋肉がついて基礎代謝量もアップし、同じ量を食べていてもエネルギーが消費されやすくなり、太りにくくなるためです。

どれくらいの強さの運動が必要でしょうか?
 運動の強さは、激しければ激しい程よいというものではありません。実は、激しい運動は糖尿病の治療としては効果はなく、適度な運動、そして緩やかな運動こそが効果的とされています。激しい運動は血糖を上昇させる作用のあるグルカゴンとアドレナリンというホルモンを多く産生し、血糖をかえって上昇させるという結果になってしまうからです。

 適度な運動の強さは脈拍を目安にして設定することができます。

 目標の脈拍数=138−(年齢÷2)

  「ウォーキング」の最中または直後に1分間の脈をとり、上の式で計算した目標の脈拍数に近ければ適度な運動ということができます。

 運動する時間帯はいつがいいのでしょうか?
 糖尿病の人では血糖値が最も上昇するのは食後60分ごろで、ピークに達するのは食後120分くらいです。 血糖値の上昇をを抑制するインスリンの効きをよくする運動は、食後60分くらいに始めるのが最も効果的であるといわれています。適度な運動を行うと血糖が緩やかに下がりはじめますから、 低血糖に対する備えは忘れないようにしなければなりません。 低血糖による事故防止のためにも、特に薬を使って血糖をコントロールしている人は、食後30分くらいたって血糖が上昇し始める頃が運動療法に適した時間と言えます。

どれくらいの時間をかけて、どれくらいの頻度で運動をしたらいいのでしょうか?
 できれば、1日1時間の運動を行うのがよいでしょう。20〜30分の運動を数回に分けて、合計が1時間になるように行ってもかまいません。
 このような運動を、週に少なくとも3〜4日、2日以上空けないで行うことが重要です。
 糖尿病治療のための運動療法には特別なことをする必要はありません。 自分にあった、無理なく毎日続けられる運動を考えてみて下さい。

 糖尿病の運動療法を行うにあたっていくつか注意しておかなければならないことがあります。
 血糖コントロールが極端に悪い場合や合併症が進行している場合など、 状態によっては運動をしない方が良い場合もあります。 新しく運動療法を始めようとする方は、まず主治医によく相談して下さい。 元気そうな方でも場合によっては、運動を始める前に心臓発作の危険がないかなどの検査をする必要があります。

 これまで運動らしい運動をやってこなかった人が急にハードな運動を行うと、腰や膝(ひざ)を痛めかねませんし、運動をやりすぎて血糖が逆に上がることもあります。いずれにしても、あわてて無理をせず、徐々に体を慣らしていくことが大切です。

 健康を考えると体に負担をかけない「服装・靴選び」が大切になります。 服装は、運動を始めると次第に体は温かくなってくるので、余計に着こまず、動きやすい服装にします。 さらに大事なのは靴です。歩きやすいシューズで、足にきちっとフィットする物を選びます。

 血糖を下げる薬やインスリンを使っている場合は、空腹時の運動は避け、低血糖に備えて、必ずブドウ糖やスティックシュガーなどを携帯し、いつでも低血糖に対応できる準備をして出かけることが大切です。体調がすぐれないときには無理をしないことも大切です。

 運動によって直接消費できるカロリーは、案外少ないと思って下さい。 運動して食欲が出たからといって食事の量が増えると、たいていの場合は、 運動効果よりも食事量の増加の方が勝ってしまい血糖値が上昇してしまいますので、注意が必要です。

 以上のことに注意しながら、適度な運動を持続していくことが良好な血糖コントロールにつながっていきますので、是非頑張ってください。

国立病院長崎医療センター 木村先生より提供